今回のインタビューは、金沢市繁華街近くの「金沢学生のまち市民交流館」を拠点に居場所の運営を行っている、メンボラ金沢ひだまりの会さんです。
メンタルヘルスとは「こころの健康」という意味です。
そのボランティアということは、メンタルヘルスボランティア(以下メンボラと略す場合があります)とはこころの健康を保つお手伝いをする人たち、と言えるかもしれません。
このメンタルヘルスボランティアは日本全国各地で活動する人たちがおり、石川県でも各地域でメンタルヘルスボランティアの活動が行われています。
メンボラ金沢ひだまりの会さんの「こころの居場所」は金沢市との協働のまちづくりチャレンジ事業として平成23年にスタートし、誰でも気軽に安心して集える場所を長年提供されています。
チラシを初めて見たときは、すぐにどんな活動でどんな雰囲気かイメージが湧かなかったので、10年も続いているこころの居場所へ実際に取材に行ってみよう!
ということで、お話を伺ってきました。
こころの居場所を開催している「金沢学生のまち市民交流館」は、金沢市の中心市街地である片町の裏手にあり、学生と市民との交流、情報交換等を通じて学生とまちとの関係を深めるとともに、自主的なまちづくり活動を支援することで、協働による市政の推進を図る施設です。
こころの居場所開催前にお時間をいただいて、お話をお伺いしました。
こころの居場所って、どんなところですか?
居場所ってそもそも、何をするところだろう。
話をしないといけない?
黙って居たらダメかな?
途中で帰れないかな?
色々疑問が湧いて来ます。
そんな疑問にお答えしてくださったのは、ひだまりの会スタッフさんです。
メンボラ金沢ひだまり会は、具体的にどんな活動をしているんですか?
月に一回の居場所を開催し、傾聴をするボランティアグループです。
生きづらさを抱える人たちの、話を聞く場を運営しています。
福祉健康センターで配布されているチラシには以下のように記載されています。
『こころの病気の人もそうでない人も、安心して集える場所。こころが疲れてしまったと思ったらふらっと立ち寄れる場所。そんなこころの居場所を作ってみました。どなたでも自由に立ち寄って行きませんか?』
いつごろから活動を始められたんですか?
13年ほど前に金沢市がメンタルヘルスボランティアの養成講座を開催していました。受講した私たちが、メンタルが大変な方の支援をしていこうと立ち上げました。
居場所が必要だという話を聞き、当時の保健師さんの後押しもあってグループができました。
活動の1年目に、金沢市が行った協働のまちづくりチャレンジ事業で採択され、市からの支援を受けることになりました。
平成23年に金沢市との協働のまちづくりチャレンジ事業としてスタートされたとチラシにも載っていますが、居場所を始められて長いですね?
そうですね、早いけど、10年は長いですね。
活動をやっていこうとなったとき、なぜ居場所になったんですか?
いろんなことで疲れた人が、そこにきて、ちょっと、少しほっとして、帰れる場所を作ろうということで。
私たちは治すとか治療とかそう言う分野ではないから、とにかくそういった方々がほんの少し集える、そこでちょっとゆっくりしてもらって、気分転換ができて、帰れる居場所みたいなのがあればいいねっていうのを保健師さんがお話ししてくださってスタートしました。
最初からやることは明確だったんですね?
そうですね。
講座を受けているときはそんな話をしたこともなかったんだけど、関心がある人がほとんどでした。元看護師さんもいたり、仕事や他での活動も様々な人の集まりで、横のつながりはなかったです。
保健師さんが呼びかけしてくださって、やってみようという人でやることなりました。
スタートしてから、どうやって宣伝していったんですか?
チラシを作って、それを福祉健康センターの窓口に置かせてもらって、後は金沢市内の精神科や心療内科とかそういう関連のところに出向いてお願いしたり。
そういう繋がりとかだんだん広がっていって、去年からかな、もうある程度知ってくださる方もそれなりに来られるようになり、病院にチラシを置くのはやめて、今は3つの福祉健康センターに置かせてもらっています。
活動がだいぶ根付いて来たという感じですかね?
そうですね。
聞いてないけど、ここに継続して来てくださっている方が自分たちが行っている作業所なり、話を聞いてもらうところでそういう話を、もしかしたらしてくれているのかもしれないです。
その辺はなぜ「ここを教えましたか?」とかちゃんと聞いてなくて、私たちがチラシを置いてない大学病院の先生から勧められて来た人もいました。
長くやっていると、巡り巡って情報がいってるのかもしれないですね。
新しい場所へ行くことは怖いこと
話を聞くうちに、誰でも来ていいこと、気軽に来ていいこと、自由に立ち寄っていいことなどがわかり、それならいろんな人に勧められるなと思っていたのですが・・・。
そもそも私自身が新しい場所に行くことがとっても怖いこと、不安なこと、ストレスになるかもしれないこと、たくさん思い返しました。
もしふらっと立ち寄って、帰りたくなっても、帰れなかったらどうしよう。
話したくなくなっても、なかなか抜け出せなかったらどうしよう。
新しい場所に行く不安がたくさんでも、本当にふらっと行っても大丈夫なんだろうか?
こころの居場所は、誰でも来ていいんですか?
チラシを見てのとおり、こころの病気の人もそうでない人も、気になっていた〜と覗きに来られたらいいと思います。
私は新しいとこに行くのがとてもとても不安です。
元気な時って何でもできるじゃないですか、調子が悪い時とか苦しい時に出かけるってとても大変なことだと思うんです。
そんな時でも来てもらう工夫とか配慮していることなどはありますか?
最初にここは「こんな場所です」って言うルールみたいなものを読み上げるんですけど、いつ来てもいつ帰ってもいいとか、緩やかな、何時から何時までここに居なきゃいけないみたいな、そういう縛りをなくすことですね。
私自身はここの前から、ひきこもりの会のところにずっと関わっていて、ひきこもっていた人がある日いきなりどこかへ出かけるわけじゃないですよね。
そうではない、でもいつ来てもいいとか、いつ帰ってもいいとか、好きなようにすればいいみたいな所だと勇気振り絞って、ちょこっと行ってみたいな、そういう場所って大事なような。
ここに来ている人たちの話を聞いてても、みんなすごい勇気振り絞って来てるみたいだから、緩やかな、来ても来んでもいいよみたいな所が、色んな所にあるといいなと思います。
なぜ最初に「ルールみたいなもの」を読み上げるんですか?
新しく参加される人もいるし、全部知ってる方もその日の流れとして改めて読み上げます。
注意事項も最初に読み上げるんですけど、運営していく中で「あれれ?」みたいなことも途中から発生したりする場合があるんですね。
最低限の「あれれ」はやめてもらった方がいいかなみたいなこと。
約束事ではないんだけど、緩やかな約束事として「こんな風にしてるのでよろしくね」みたいな。
もし自分が初めて参加したとしたら、これ読み上げてもらうと、安心するかも知れません。
今は長く来られてる方が多いんで、新しく参加した人が雰囲気に入っていけないと思うんじゃないかと感じることが、ちょこっとあります。
そういう時にはスタッフの皆さんそれぞれが、さりげなく新しい人の所に行って孤立しないように、なんとなく相手のペースを見ながら緩やかに、話しかけてすーっと横に行ってみたいな形を作ってくれています。
行きたい時は、予約とか必要ですか?
いらないです、その日にふらっと来ても大丈夫です。
連絡も必要ありません。
10年続けてこれたコツ
最初に「いつ来てもいつ帰ってもいい」とちょっとしたルールを読み上げてもらうことで、途中退席しても大丈夫な場所なんだとみんながわかっていてくれると、帰るのも自由にできそうです。
縛りをなくすこと、緩やかな場所であることを言葉に出して共有することが、居心地の良さに繋がっているんだろうなと思いました。
居心地のいい場所はたしかに長く続きそうです。
10年という長い期間を続けることはすごいことだと思います。
運営するスタッフが居場所をやっていく上で大事にしていることはありますか?
ここに何をしに来ているかはスタッフの一人一人が違う気がします。
ある方は習慣だったり、定期的に来ることが心の平安になっていたり、自分が何か力になれるんじゃないかとか、様々じゃないかなと思います。
10年にもなる活動、続けてこれた、コツなどはありますか?
義務感とか、こうしなきゃみたいなことは思わないで、とりあえずその時間そこに行っている感じ。
縛らないということ。
極力、参加された皆さんにも無理しないで参加してもらってます。スタッフも無理せず、行ける時にボランティアをしています。
「このあいだ来んかったじー?今度はきてよ!」って誰もが言わないですね。
平日の午後に開催しているのも、スタッフが無理のないように続けれるようにした結果なんですね。
義務感はないとのことですが、やりがいもないと続けれないと思うんですが、
やってて良かったと思うことはありますか?
何をしたわけでもないし、喋らない時でも、帰る時にはなにか役に立っていたらいいなと、小さな幸福感のような気持ちにさせてくれる。
皆さんとの話のやりとり、そのことで自分たちが助けられてる部分もあるのかな。
長く続けて運営で負担がないというのは、長く続いた一番のポイントかもしれないですね。
それに、やはり居場所を運営する側も助けれられている部分がある、だからこそまた次回もやろうと思えるということですね!
今後について
ひだまりの会や、こころの居場所がこうなって欲しいとかありますか?
ひだまりの会みたいなのがあっちこっちにあってくれたらいいなと思います。
長い目で見ると何かトータル的に、ほんのちょっとお役に立ててるのかなって。
「来てね来てね」じゃなくて、とりあえず月に1回、平日午後の2時間はここにいますよ、だけ。
来られた人がちょっとほっとしてくれたら。
大変な話があるかとおもったら非常に平和な10年ですね。
スタッフも参加される方も、一期一会、縁の中で続いた10年と言えそうですね。
実際に参加して来ました!
インタビューの後に行われた7月のこころの居場所にスタッフNも参加して来ました。
この日は久しぶりの開催もあってか、参加者が10名以上、初めての人も馴染みの人も、年も性別もバラバラの人たちが集まり2時間お話をされていきました。
会場はいつもより広い交流ホールで行われました。
畳の部屋にぐるっと低い高さのテーブルに距離を取りながら座り、参加名簿に記名、その日呼んで欲しい自分のニックネームを書き首からネームプレートを下げ、お茶も用意されていました。
最初に注意事項などの説明があり、初めて参加する人もいるのでアイスブレイクも行いました。
(アイスブレイクとは初対面の人同士が出会う時に、その緊張をほぐすための手法です。)
その日の気分はどんな感じか、用意されたカードに近い気分のカードを選び、それぞれが「今日は怒っている」「今日は怖い気分」「楽しい気分」などみんなに表明します。
どの人がどんな気分か、先に把握できることはスタッフ側も参加する側も安心できる仕組みだなと思いました。
時間は2時間、様子を見ながら話をしているだけではあっという間。
先に気分を表明することで打ち解けやすく、その時の気分を口に出して伝えれるということ自体がストレスの軽減につながるなと思いました。
スタッフ側も参加する側も特に決まった席に居なきゃ駄目ということもなく、みなさん自由に移動し久しぶりの開催に近況を語り合っている様子でした。
途中参加する方も途中退席する方もおり、自由。
ごろんと横になる人もいれば仕事の途中に来たというスーツの方もいました。
みなさんがリラックスして、お茶を飲みながらがやがや、2時間過ごされていました。
時間を延長することもなく、2時間が経つと終了となりました。
関わるみんなが、ちょっとほっとできる場所
こころの居場所をスタートさせたきっかけは、金沢市が開いたメンタルヘルスボランティアの養成講座からとはいうものの、そこに通っていたみなさんそれぞれがやりたいと思ったからということでした。
ひだまりの会を自発的にスタートし、運営するスタッフにも、居場所を利用する人にも、無理強いはしない。誰かのためにと始めたことが、巡り巡って運営する側のやりがいに繋がる。
長年のノウハウは自然と生まれたものかもしれないが、それが結果として10年と言う長い居場所運営の礎になっていると思いました。
運営する側が楽しく、また来たいと思える。
そう思える仲間がいるからこそ、こころの居場所は長く続き、たくさんの人に利用されてきたのではないでしょうか。
無理をして人と付き合うということは、お互いにその人らしさを奪い合う時間かも知れません。
どんな会社でも集まりでも、それは家族であっても相性というものはあるのではないでしょうか。
たしかに、居場所といいながらスタッフ側がギスギスしていると、それは来る人にも少なからず伝わるかもしれませんね。
ひだまりの会さんが運営するこころの居場所は、合う合わないという相性も織り込んで、帰るときにまた来ようと思える。
いつでも、誰でも、来たい人が来て、ちょっとほっとするだけでいい。
ここに集まる人たちがみんな同じ思いで集まれるからこそ、また次回も来たいと思えるのではないでしょうか。
気が向いた時にふらっとこれる、そんなハードルの低さが、人と人との縁となり、10年を紡んで来たのだと思いました。
参加するのに、事前に申し込みや予約は必要ありません。
申し込みをすると、その日の体調や気分で行けなくなったらまた連絡をしないといけなくなり、不参加の連絡をするのがまた負担になり・・・と、考えだすと不安になりますよね。
その日にもし天気が良くて、ふと行きたくなったらそのままふらっと参加できる気軽さは、ありがたいですね。
気になった方はぜひ一度、ふらっと足を運んでみてはいかがでしょうか?
(文と写真:ワンネススクール 中村)
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